2013年06月29日

宝篋山マスター、山を下り都民に標本作りを教える

昨晩、実家の居間で夏休みの予定表をメモしていた時、脇にあるテレビでは非常に不快な気分にさせられる番組が放映していた。
「優しい国選手権」と題し、オーストラリア、エチオピア、インドネシア、フィンランド、日本の五国が登場したのだが、それぞれの国の街角で、荷物が多すぎて困っている女性が用意され、彼女を手伝ってあげる人が一番多い国が優勝する、というものであった。
610としてはアフリカで唯一宗主国による占領を受けなかった偉大なるエチオピアの首都アディスアベバの様子が見られたことと、セム語の中でアラビア語に次いで話者が多く、しかしセム語でありながらアラビア語やヘブライ語と違って左から右に書くアムハラ文字が見られたことは大変満足であったが、それ以外の内容がとうてい受け入れられるものではなくて、フィンランドの様子を見る前にテレビを消してしまった。

なぜ「荷物を持つのを手伝ってくれること=やさしさ」という図式が前提なのだろうか。これは世界各国で共通の概念なのだろうか。けだし、この前提は日本国民の多くにはイメージできるものであると思うのだが、そういうフィルターを通したうえで、荷物運びを手伝うことを優しさの判定に用いることは非常に危険なことであるように思うのである。
だって、荷物を運ぶ人が少ないということは、その国が優しくないことを反映していることになるのである。手伝ってくれる人が少なかったエチオピアやインドネシアは、本当に優しい国ではないのか? 
こんな単純な論理で、ある国の国民性を量るということ、それから、エンターテイメントの中でこういう計算を行って、我々に回答として提示することに、610はイライラが募ってならなかったのである。
※もう少し詳しく610のフィルターをかけて述べてみると、他人の荷物を運ぶという行為は、ある程度経済的に余裕がないとなかなか行えないものだと思うのである。貧しければ、人のためにお金にもならないことを行う余裕はなかなかないであろうし、そもそも、自分で運べないほど多くの荷物を持っているなど、盗んでくださいと言っているようなものではないか。

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さて、今朝は6時半起床。もっと早く起きなければいけないのだが、なにぶん昨晩なかなか寝付けなかったのである。
とっとと朝食を済ませて急いでヒヌマに会いに出かける。


ポイントについて数匹の確認をした後、いきなり交尾個体を発見。彼らの撮影会が始まる。




交尾個体の撮影を堪能した後、単体の個体の撮影に移る。






そこそこの個体数は見つかったものの、やはり例年の最盛期に比べると少なめな感じがする。

ところで、この場所は少なくとも610が(不定期な)観察を始めた2007年ごろには同業者に会うことが全くなかったのだが、今回は地元の方らしき人たちが4名もいらした。これにはずいぶん驚かされたのだが、単純に喜んでもいいのかどうかは今のところ保留しなければならない。
このポイントは少なくとも2年くらい前までは鬱蒼としていたのだが、今日来てみて随分歩きやすくなっていること感じた。ヒヌマたちは開けた場所が好きではなくて、アシが鬱蒼と生い茂った空間で生活を送っている。なので、探しやすくするため、歩きやすくするため、あるいは良い写真を撮るために草を刈ったりするようなことがあると、結果として観察者自身の首を絞めることにつながってしまうと思うのである。
この方たちがそういう作業を行っているのかは分からない―積極的にはしていないと願いたい―が、このポイントは気軽に観察を楽しめるとても貴重な場所であるから、なるべく元の環境を維持するように務めるのは観察者としての義務である。
610もハッチョウの生息地をかなり荒らしてしまっている自覚があるので、頻繁に訪れるような場所では自分が存在した形跡が追跡できないような、仙人のような観察をしたいものである。

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さてお昼前に、本日標本作りを教えることになっている学校へ向けて出発する。が、その前に志賀昆虫へ立ち寄って、いくらか買い物をする。


実家から行く場合は、蒲田から東急池上線に載って20分で最寄駅の戸越銀座へアクセスできる。この路線に乗るのも久しぶりなので、つくばではほとんど摂取できない鉄分を補給することに。東横線渋谷駅のホームが大きく変革された今、ターミナルの雰囲気を良く残す駅は、都内では蒲田と上野くらいになってしまったような気がする。


東急の本線系統では最新鋭の電車が行きかっているのだが、池上線・多摩川線ではご覧のように今から50年前に作られた電車が(改造を受けつつも)現役で使われている。


こちらで吸虫管とか三角紙、標本用台紙を購入。いずれも自作すればよいのだが、時には既製品を買いたくもなってしまうのだ。

戸越銀座でお昼も済ませてからいざ学校へ向かう。正門前でY先生と落ち合って生物室に行くのだが、やたらと大人が多くて不思議な感じがぬぐえなかった。今日は学校公開が行われていたようである。
生徒たちが揃うまで、先人が遺した標本があるとのことで、それを拝見させてもらうことにする。そして、見た瞬間に衝撃が走るのであった。
三角紙の中からいきなりベニヒカゲが出てきたのだ! それから、極めつけはこれである。


菅平ラベルのミヤマモンキチョウ! 
610はチョウには疎く、しかも高山のチョウには生活空間的に縁が全くないので詳しいことは良く分からないのだが、それでも、こういうチョウは、今は採集するのにとても苦労するはずである。持ち込んだ『楽しい昆虫採集』を見ても、長野県ではミヤマモンキチョウは県指定の天然記念物になっている。
となると、ここにあるのは恐らく天然記念物の指定を受ける前に採集されたものである。そんな貴重な標本が、蓋が壊れ、底もベコベコな標本箱に放置されているなんて!
ミヤマモンキチョウの指定は1975年になされたのですが、標本は1972年に採集されています。よって、この標本は違法性が無いと判断し掲載しております。
一応、Y先生には個々に貴重な標本がある旨をお知らせしておいたので、そのうち整備されることを願い、本日依頼されていたメインイベントに移るのであった。


この学校では今年度、生物同好会が部に昇格したようで、そのために夏合宿が行えるのだという。そこで昆虫採集をしたいので、標本作りを教えてほしい、と言う依頼を、3月の生研OBとY先生との食事会で受けたのであった。ひとまず、材料を集めるために行内外で虫探しをみんなで行う。
生徒たちは本格的な野外観察をした経験が無いとのことで、いわゆるガチ勢はいなかったのだが、結構虫が好きな生徒(彼は生物部でなないらしい)がそこそこ頼りになりそうな感じであった。ただし、虫がなかなか見つからず、1時間弱散策をして採集できたのはモンシロチョウとオオシオカラトンボ、それからアオドウガネだけであった。まあ、この3種類がいれば基本的な標本作りのお作法は教えられよう。
この学校には三角ケースとか三角紙、捕虫網、毒ビン等は新品があって、そこそこ設備は整っていたのだが、展翅板が存在しなかった。そのため、写真のようにモンシロチョウを裏面展翅するような感じで無理やり展翅せざるを得なかったのだが、それでも生徒のみんなは一生懸命に取り組んでくれたので、エッセンスは感じ取ってもらえたと思いたい。

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この後、まっすぐつくばっくする予定だったが、予想外のハプニングに見舞われて23時ごろまであたふたする結果となってしまった。
その顛末は明日の記事で詳しく書くことにします。
  


Posted by Impulse610 at 18:10Comments(0)